
[ワシントン ロイター]米ファイザーとドナルド・トランプ大統領は9月30日、公的医療保険メディケイドにおける処方薬の価格を引き下げることで合意したと発表した。他の先進国と同水準に引き下げ、その引き換えに同社製品への関税を3年間免除する。
トランプ氏はまた、ファイザーが米国で発売するすべての新薬について、最恵国待遇(most-favored-nation)価格を設定すると述べ、ほかの製薬企業も追随するだろうとの見通しを示した。
関連記事:ファイザーとトランプ政権の薬価引き下げ合意、発表のポイント
政府の直販サイト「TrumpRx」に参加
政権との合意を受け、ファイザーの株価は6%以上上昇。投資家には関税の最悪の影響を回避できるとの安堵感が広がり、米イーライリリー、同メルク、同アムジェン、同アッヴィ、英グラクソ・スミスクラインの株価も上昇した。欧州株も10月1日の取引開始早々に上昇した。
米国の患者は処方薬のコストの圧倒的大部分を負担しており、ほかの先進国と比べて価格が3倍近くになることも珍しくない。トランプ氏は製薬企業に対し、他国と同水準まで価格を下げるよう圧力をかけ続けている。
ファイザーは、ホワイトハウスが2026年の開始を予定している消費者向け医薬品直販サイト「TrumpRX」に参加する。
トランプ氏は大統領執務室で開いたイベントで「米国は世界の医療費を補助するのをやめる」と述べた。イベントには、ファイザーのアルバート・ブーラCEO(最高経営責任者)やロバート・F・ケネディ・ジュニア保健福祉省長官らが同席した。
米国研究製薬工業協会(PhRMA)は9月29日、独自の直販プラットフォームを26年1月に開設すると発表。いくつかの製薬企業は、すでに直販価格を設定し、米国での価格引き下げを他国での値上げで相殺すべきとするトランプ氏の意向に沿って英国で価格を引き上げた。
最大85%値下げ、関税は3年免除
トランプ氏は9月25日、米国で工場建設を行っていない製薬企業のブランド薬と特許薬について、10月1日から100%の関税を課すとSNSに投稿した。
政権と値下げに合意したのはファイザーが初めてだ。トランプ氏は7月、大手製薬企業17社に書簡を送り、海外と同水準まで価格を引き下げるよう要請。9月29日までに拘束力のあるコミットメントを示すよう求めた。
大手製薬企業5社の関係者はロイターに対し、ファイザーとトランプ氏の発表は各社にとって驚きであり、その影響を測るためホワイトハウスで行われた記者会見を見守ったと語った。
ファイザーは研究開発と国内製造に700億ドルを投資し、かわりに関税について3年間の猶予を与えられた。この間、同社の製品は関税の対象にならない。ブーラ氏は「もちろん、製品を米国に移転ならば」と述べた。
ファイザーのウェブサイトによると、同社は米国におよそ9か所の製造拠点を持っており、その他の国ではアイルランドから日本まで世界各地に28の拠点を有する。同社のライバルである英アストラゼネカやイーライリリーも、政権が医薬品に関税を課す方針を示したことを受け、米国での製造能力の増強を表明している。
ファイザーはプライマリ領域の製品の大部分と一部のスペシャリティ領域の製品の価格を、最大85%、平均50%引き下げるとしている。ホワイトハウスで開かれたイベントに展示されたポスターによると、値下げの対象には関節リウマチ治療薬「Xeljanz」、片頭痛治療薬「Zavzpret」、皮膚炎治療薬「Eucrisa」、骨粗鬆症治療薬「Duavee」などが含まれる。Xeljanzの現在の定価は月額6000ドルを超える。
株価は上昇「影響大きくない」
投資会社ガベリ・ファンズのポートフォリオマネージャー、ダニエル・バラサ氏は、値下げ発表にもかかわらず製薬企業の株価が上昇したのは、値下げがメディケイドに限定されているからだと分析。同氏は今回の合意について「業界にとっては非常に好ましい結果だ。メディケイドではすでに大幅な割引やリベート(80%を超える場合もある)が行われており、製薬企業への追加的な影響は比較的小さい」と語った。
トランプ政権高官はメディア向けの電話会議で、メディケイドの新価格設定も26年の開始を予定していると述べた。最恵国待遇価格は、8カ国での手数料・リベート控除後の最低価格に基づく。
低所得者向けの公的医療保険であるメディケイドには7000万人以上が加入している。ただ、その支出は、高齢者や障害者を対象とするメディケアと比べると非常に少ない。メディケアの2021年の医薬品支出は2160億ドルだった一方、メディケイドの総支出は800億ドルにとどまる。ファイザーと政権の合意にはメディケアは含まれていない。
ヴァーダント・リサーチの医療経済学者、アンナ・カルテンボック氏は、ファイザーなどの企業がメディケイドに追加的なリベートを提供すれば、特にスペシャリティ医薬品のコストに苦しむ州を支援することになると指摘。ただ、メディケイドはほかの医療保険に比べて医薬品への支出が少なく、仮にメディケアで値下げを行った場合と比べると影響は大きくないと話した。
(取材:Nandita Bose/Jarrett Renshaw/Katherine Jackson/Susan Heavey/Maggie Fick/Patrick Wingrove/Sneha S K/Deena Beasley/Michael Erman、編集:Bill Berkrot、翻訳:AnswersNews)




 
				


 
								 
								
 
											 
											 
											 
											 
											



