
9月4日、米議会上院財務委員会の公聴会で政権の医療政策について証言したロバート・F・ケネディ・ジュニア保健福祉省長官(ロイター)
[ワシントン ロイター]米国のドナルド・トランプ大統領は、医療制度に混乱をもたらしてもなお、ロバート・F・ケネディ・ジュニア厚生長官を支持し続けている。議会からの圧力、公衆衛生上の懸念、さらにはワクチン政策変更に伴う政治的リスクにも関わらず、ケネディ氏への信頼は揺らいでいないようだ。
保健福祉省長官に就任して以降、ケネディ氏はワクチン研究への資金提供を大幅に削減し、新型コロナウイルスワクチンの接種を制限し、ワクチン政策を所管する疾病対策センター(CDC)の所長を追放した。
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公衆衛生の専門家らは、こうした政策変更が米国民とその健康に広範な悪影響を及ぼすと警告している。トランプ氏にとっては政治的なリスクにもなる。ワクチン接種率が低下したあとに感染症の流行が起これば、批判の矛先がトランプ氏自身に向く可能性があるからだ。
「変わった人物、好ましい」
しかし、2人の間柄に詳しい関係者によると、トランプ氏は今のところケネディ氏への支持を揺るがせていない。
ケネディ氏は今月4日、米議会上院財務委員会の公聴会で、ワクチン政策をめぐって議員から厳しい追及を受けた。しかし、トランプ氏はこの日、ホワイトハウスで記者団に「ケネディ氏はとても良い人物だ。良い意味で行動している。彼は少し変わった考えを持っている」と語った。トランプ氏はさらに「世界や米国の健康をめぐる現状を踏まえると、私は彼が『変わっている』という事実を好ましく思っている」と付け加えた。
ホワイトハウス当局者によると、トランプ氏とケネディ氏は定期的に話すが、ほかの閣僚ほど頻繁ではないという。この当局者は「主要ないくつかの問題について、トランプ氏はボビー(ケネディ氏の愛称)ほど強い思いを持っているわけではない。トランプ氏はボビーの判断を信頼している」と指摘。2人は同じ情熱を共有しているわけではないものの、トランプ氏はケネディ氏を支持していると明かした。
2024年の大統領選でトランプ氏は、ケネディ氏が提唱する「Make America Healthy Again(アメリカを再び健康に)」運動から支持を受け、ケネディ氏を保健福祉省長官に任命した。ケネディ氏は米国で最も有名な政治家一族出身で、同年の大統領選に一時出馬したものの、トランプ氏への支持を表明して撤退した。
トランプ氏は、長年にわたってワクチンを批判してきた人物が過激な政策変更を行う可能性を軽視していたようだ。大統領選勝利後の昨年12月、トランプ氏はフロリダ州にある自身の別荘で記者団に「ケネディ氏は皆さんが考えているよりずっと穏健になると思う。彼は非常にオープンな考え方を持っている。そうでなければ、彼を厚生長官に任命することはなかっただろう」と語っていた。
複雑な見解
ワクチンに対するトランプ氏自身の見解は複雑だ。1期目に新型コロナワクチンの開発を加速させたことは功績として認められている一方、自身の支持層のワクチンへの反感やパンデミックへの対応全般を鑑みると、必ずしもワクチンに積極的な姿勢ではない。
フロリダ州の指導者らは今月3日、子どもの就学に必要なワクチンの接種義務を撤廃する方針を発表した。これに対し、トランプ氏は5日、大統領執務室で記者団に「いいか、素晴らしいワクチンはいくつもある。ポリオワクチンは素晴らしいと思っている。ワクチンは不要だと言う人物がいた場合、非常に注意しなければならない…非常に難しい立場だ」と述べた。フロリダ州の方針に穏やかに疑問を呈したように見えた。
ロイターとイプソスの世論調査によると、民主党員は近年、ワクチンへの信頼度を高めている。一方、共和党員はそうではないようだ。
今年5月の調査では、はしか、おたふくかぜ、風疹などのワクチンについて、民主党員の約75%が子どもにとって「非常に安全」と回答。2020年調査の64%から上昇した。一方、共和党員では同じ回答をした人の割合は5年前の57%から41%に低下している。
トランプ政権1期目に副大統領の首席補佐官としてパンデミック対応計画を主導したマーク・ショート氏は、トランプ氏はそうした政治的力学を敏感に察知し、それに応じ対応してきたと指摘。事態が悪化すればケネディ氏にリスクがあるとし、「自身にとって恥だと感じるようなことがあれば、ある種の決断を下し、さっさと手を引いて別の方向に進む能力をトランプ氏は持っている」と語った。
トランプ氏は最近、ワクチンメーカーは自社製品が数百万人の命を救ったことを証明すべきだとSNSに投稿した。
十分に評価されていない
この問題に対するトランプ氏の複雑な態度の背景には、1期目に主導したワクチン開発促進プログラム「ワープスピード作戦」が十分に評価されていないという思いがあると、ホワイトハウス当局者は指摘する。
今月4日の騒然とした公聴会では、民主党と共和党の双方の議員がケネディ氏を厳しく批判し、同氏への不信感が党派を超えて広がっていることを印象付けた。共和党の同盟者やJ・D・ヴァンス大統領ら政権メンバーらは、ケネディ氏を厳しく追及した議員をSNSで批判。ヴァンス氏はXに「あんたは全くのデタラメだ。それは誰もが知っている」と投稿した。
一部の公衆衛生当局者は、トランプ氏がケネディ氏と結んだ政治的同盟、そしてトランプ氏がケネディ氏に与えている自由な裁量が、事態を悪化させていると嘆く。
イェール第公衆衛生大学院のグレッグ・コンサルベス准教授は、トランプ氏のワープスピード作戦は「途方もない勝利だ」と称賛しつつ、「2人は互いにとって都合のいい結婚をしたが、それは公衆衛生、医療、生物医学研究に前例のない悲惨な結果をもたらすことになるだろう」と話している。
(取材:Jeff Mason/Jason Lange/Trevor Hunnicutt/David Morgan/Jarrett Renshaw、編集:Colleen Jenkins/Alistair Bell、翻訳:AnswersNews)




 
				


 
								 
								
 
											 
											 
											 
											 
											



