
(写真・ロイター)
[ニューヨーク ロイター]米国のトランプ政権が、医薬品価格の抑制に向け、欧州など他の先進国で価格を引き上げるための方策について製薬企業と協議している。ホワイトハウス当局者によると、政権は製薬企業に対し、他の先進国の最も低い価格に合わせる「最恵国待遇」価格を設定すれば、他国との価格交渉を支援する考えを伝えたという。
米国は現在、2国間での貿易交渉を進めており、医薬品への関税についても検討している。
2人の情報筋によると、政権はいくつかの企業に対し、他国での医薬品価格引き上げについてアイデアを求めた。政権と製薬企業の間では、業界が主張する研究開発費の削減を招くことなく米国の価格を引き下げることを目指し、数カ月にわたって複数の会合が行われている。ホワイトハウス当局者は、この取り組みは協力的なものであり、双方が互いに助言を求めていると語った。
「価格の均衡は望ましいこと」
米イーライリリーのデイビッド・リックスCEOは8月7日の投資家向け電話会議で、米国と欧州の医薬品価格の均衡は望ましいことだとし、ホワイトハウスがその変化を促すことができるとの見方を示した。リックス氏は「問題はどうやって実現するかだ。周知の通り、欧州諸国は医薬品への支出の増加に同意していない。バランスを取り戻すには貿易ツールが必要であり、米国と欧州の双方に対してそうしたことを明確に提唱してきた」と述べた。
米国の処方薬の価格は他のどの国よりも高く、先進国と比べても3倍近くになるケースも珍しくない。ドナルド・トランプ大統領は、価格差を縮小して米国民への「ぼったくり」を止めたいと繰り返し述べている。
これまで報じられてこなかったこの協議は、トランプ氏が自身の目標達成に向けて直面している課題を反映しており、先週、主な製薬企業17社に送った書簡の背景となっている。書簡では、米国での価格を他国と同水準に引き下げるよう求めた。
関連記事:トランプ氏、製薬17社に処方薬価格引き下げ求める書簡…「影響ほとんどない」との見方も
市場原理で医薬品の価格が決まる米国と異なり、欧州では各国政府が企業と交渉して保険償還価格を決めるのが一般的だ。バーダント・リサーチの医療経済学者、アンナ・カルテンベック氏は、欧州諸国では価格決定に政府が影響力を持っており、高すぎるとみなせば購入を拒否することもあると指摘した。
欧州の価格引き上げは「最優先事項」
グローバル製薬企業は売り上げの大半を米国で生み出している。業界の主要なロビー団体である米国研究製薬工業協会(PhRMA)は、米国で価格を引き下げれば研究開発費が減り、イノベーションが阻害されると主張している。PhRMAは政権と企業の協議についてコメントを控えた。
カルテンベック氏は、製薬企業は米国で世界中の研究開発費全体を賄う以上の収益を上げていることが過去の調査で示されているとし、「他国での価格を上げることなく米国で価格を下げることは可能であり、私たちはイノベーションを享受できる」と話した。
ある欧州製薬企業の幹部によると、政権は関税や製造拠点移転で業界に圧力をかけているが、両者の協議では欧州の医薬品価格引き上げが最優先事項になっているという。この幹部は「欧州での価格引き上げは、政権と業界団体や企業との間で進められている重要な対話だ。ペンシルベニア通り(ホワイトハウス)からのメッセージを受け、我々もすでに動き始めている」と述べた。この幹部が所属する企業は、すでにこの問題について欧州各国政府と会合を持ったという。
欧州委員会の報道官は、業界とは定期的にコミュニケーションをとっており、米国が医薬品に関税を課す場合は上限を15%とすることで米国と合意していると指摘した。
政権「他国との価格交渉支援」
政権が他国との価格交渉をどのように支援するのか問うと、ホワイトハウス当局者はトランプ氏が5月に出した大統領令に言及した。この大統領令は、貿易当局に対し、医薬品価格を公正な市場価値より低く設定している国に貿易措置や法的措置を追求するよう指示している。
関連記事:トランプ氏、薬価引き下げの大統領令に署名「59~90%の値下げ目指す」も実行性には疑問符
主要製薬企業への書簡でトランプ氏は、5月の大統領令以降、業界から受けた提案のほとんどが責任転嫁や金銭的補助の要求だったと不満を表明した。
ある製薬企業の幹部は、トランプ政権は彼の会社の代表者と継続的に会合を開き、他国の医薬品価格を引き上げる戦略について話し合ってきたと明かした。この幹部は「政権は米国外の価格を引き上げるよう強く働きかけている」と語った。
この幹部によると、トランプ政権は貿易交渉をツールとして使うことを検討しており、各国に対してGDPに占める医薬品への支出割合を高めるよう圧力をかけることや、医薬品支出の増加と引き換えに関税での優遇措置を提供することなどが考えられていたという。特に英国との合意は、同国が長期的にブランド医薬品への投資を強化することを目的としていると理解されている。
英国政府の報道官は貿易交渉についてコメントを控える一方、医薬品価格については米国や時刻の製薬業界と引き続き緊密に連携していくと話した。
今年4月には、英アストラゼネカ、独バイエル、デンマーク・ノボノルディスクなど30社以上のCEOが、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長に対し、欧州は医薬品の価格設定政策を見直す必要があるとする書簡に署名した。
ただ、カルテンベック氏は「すでに医薬品への支出を管理する能力を持っている国が、逆の方向へと進むのは難しいだろう。政治的にもあまり意味がない」と話している。
(取材:Patrick Wingrove/Maggie Fick/Alistair Smout/Jan Strupczewski、編集:Caroline Humer/Bill Berkrot、翻訳:AnswersNews)




 
				


 
								 
								
 
											 
											 
											 
											 
											



