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[破壊]製薬企業をむしばむ「7つの病」人事風土改革と収益構造改革の必要性|2040年 ニッポン製薬新産業論④

更新日

増井慶太:インダストリアルドライブ合同会社CEO、BAIOX株式会社CEO

前回は、ヒト・モノ・カネ・チエの「流動」が技術や事業の進化において重要であると書きました。今回は、日本の製薬業界の閉塞感を打破するもう1つの鍵について書いていきたいと思います。キーワードは「破壊」です。

 

【記事一覧】連載「2040年 ニッポン製薬新産業論」

 

これまでいろいろな製薬企業とお仕事をする中で、特に日本の製薬企業に根深く潜む病についてことあるごとにお話してきました。日本の大企業によくある鈍さ、忖度、属人性、官僚制…。それらが新しい動きやアイデアの実装を阻んでいるケースは枚挙にいとまがありません。いろいろな製薬企業とかかわっていると、多くの現場で共通する病巣を目の当たりにします。たとえば、次の「7つの病」は、内資/外資や規模の大小を問わず多くの製薬企業に存在するのではないでしょうか。

 

「ジョウイカタツ病」指示待ち文化

「ベンチマーク病」他社制度の模倣

「イゾン病」サプライヤーへの過度な依存体制

「コトナカレ病」過剰なリスク回避と失敗回避文化

「SOP病」社内ルールへの過度な執着

「サイロ病」横串の通らない縦割り構造と部門間の対立構造

「ヨリアイ病」意思決定の過度な合意依存

 

これらはすべて、「変わらないこと」に対する過剰な安心感の副産物かもしれません。こうした病と決別しようと、大規模な改革を行っている企業もいくつか出てきています。コミュニケーションや意思決定に関わる時間やコストを削減するため、中間層の管理職を大幅に削減するような組織改革が散見されるところです。

 

製薬業界は人の生命に関わる規制業種であり、安全性と信頼性の担保は事業推進の前提です。しかし、患者に対する慎重さとは異なる文脈の保守性から、人事や組織の変革が停滞してしまっているケースも多くあります。例えば、成果より年次を重視した評価、全社最適ではなく忖度による人事異動、実績よりも声の大きさで決まる昇格――。

 

DXやAIに資金が向かう昨今ですが、そもそも「組織のOS」が旧式のままでは、そこにどんなソリューションやアプリケーションを載せても、企業が大きく変革することはできません。従業員の自発的なマインドの変革に限界があるのだとすると、マネジメント側が本気を出して変革を迫るしかありません。しかし、周囲の反対や社員の反発を押し切ってでも構造改革をしようとするCXOが、日本の製薬企業にどれだけいるでしょうか。

 

‘’壊す勇気‘’なければ‘’創る自由‘’得られない

こうした病やマインドセットは、回りまわって業績のボトムラインに影響を与えます。

 

製薬業界では長らく「売上最大化=利益最大化」と考えられてきたような印象があります。投資界隈を除き、「収益構造」に真剣に目配せをしていたビジネスパーソンは他産業と比べて少なかったように思います。

 

それは、ブロックバスターが前提となっていた時代は「売上最大化」がほぼ「利益最大化」に直結していたからだと考えていますが、一方で、薬価制度の構造的変化、ジェネリック医薬品やバイオシミラーの普及、診療報酬との連動性、巨大市場である米国の政策動向などにより、単純な売上高の拡大を考えるだけでは成長を維持することが難しくなってきています。

 

製薬産業は研究開発への支出が大きい産業ですが、研究開発の生産性は低下を続けています(ムーアの法則を逆さにして「eRoomの法則」と呼びます)。患者数、薬価、それらを乗した売上高など、研究開発の生産性を規定するパラメータは複数ありますが、開発パイプラインの商業化までの期間(Time to Market)が長い間変わっていない背景には、企業の組織やカルチャーの課題が小さくないのではないかと思います。

 

「破壊」というとネガティブな印象を持たれるかもしれません。しかしここで言う破壊とは、「古い構造を建設的に破壊すること」です。組織、人事制度、収益構造…。あらゆる領域で‘’壊す勇気‘’を持たなければ‘’創る自由‘’は得られません。

 

次回は「分散」をテーマに、プレシジョン・ヘルスケア時代に求められる医薬品ビジネスのあり方について考えていきたいと思います。

 

増井慶太(ますい・けいた)インダストリアルドライブ合同会社CEO、BAIOX株式会社CEO。ヘルスケアやライフサイエンス領域の投資運営、M&A仲介、カンパニー・クリエーション、事業運営に従事。東京大教養学部卒業後、米系経営戦略コンサルティング企業、欧州製薬企業などを経て現職。
ウェブサイト:https://www.industrialdrive.biz/
X(Twitter):@keita_masui
LinkedIn:https://www.linkedin.com/in/keita-masui/
Note:https://note.com/posiwid

 

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