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【工場探訪:くすりづくりの現場を歩く】中外製薬工業・宇都宮工場―日本最大級のバイオ医薬品製造施設はDXの先進地

更新日

亀田真由

栃木県宇都宮市のJR宇都宮駅から、2023年開業の次世代型路面電車(LRT)「宇都宮ライトレール」に揺られること27分。清原地区市民センター前停留所で降り、10分ほど歩いたところに、中外製薬グループの主力生産拠点である中外製薬工業・宇都宮工場があります。

 

バイオ医薬品をグローバルに供給

東京ドーム83個分の広さを持つ清原工業団地の一角にある同工場は、日本最大級のバイオ医薬品製造施設。南北約500メートル、東西約250メートル、広さ12万1573平方メートルの敷地には、「バイオ原薬棟」「注射剤棟」「品質管理棟」など8つの建物が並び、それらすべてが全長約360メートルの1本の中央廊下でつながっています。

 

「宇都宮工場では、事務スタッフを含む644人の従業員全員が同じ制服を着て勤務しています。出勤したらまず、全員が事務所のある『10号棟』で制服に着替え、それから中央廊下に出てそれぞれの勤務場所に向かいます」(中外製薬工業総務グループマネージャーの三橋敬介さん)。一度入ると、建物間の移動で外に出ることはないといいます。10号棟は宇都宮工場で最も新しい建物で、東日本大震災で被災した棟を立て替えて2012年に完成しました。

 

宇都宮工場の現在の延床面積は76,548.47㎡と、東京ドーム1個分。来年稼働予定の新注射剤棟と新バイオ原薬製造棟も中央廊下でつながる。【左上】従業員が出勤してまず入る「10号棟」の外観【右上】各棟をつなぐ中央廊下【左下】中央廊下に置かれた100周年記念の「ありがとうの木」。従業員が周囲への感謝の言葉を書き込む【右下】中央廊下1階は自動搬送車が走る

宇都宮工場の現在の延床面積は76,548.47㎡と、東京ドーム1個分。来年稼働予定の新注射剤棟と新バイオ原薬製造棟も中央廊下でつながる。【左上】従業員が出勤してまず入る「10号棟」の外観【右上】各棟をつなぐ中央廊下【左下】中央廊下に置かれた100周年記念の「ありがとうの木」。従業員が周囲への感謝の言葉を書き込む【右下】中央廊下1階は自動搬送車が走る

 

宇都宮工場は1990年の操業開始から、中外製薬のバイオ医薬品の商用生産を担っています。現在製造しているのは4製品6剤形。今回の取材では、1万リットルの培養タンク2基を有するバイオ原薬棟と、そこで製造した原薬を製剤化する注射剤棟を案内してもらいました。

 

1万リットルのタンク2基で原薬製造

原薬の製造は大きく、培養工程と精製工程に分かれます。ワーキングセルバンクと呼ぶ種細胞を段階的に拡大培養していき、1万リットルの培養タンクで抗体を生産。そこから細胞や不純物を取り除いて精製・濃縮すると原薬が完成します。

 

【左上】種細胞培養を行う部屋【右上】拡大培養に使う3種類の培養容器【左下】1万リットルの培養タンク。タンク内のセンサーで溶存酸素濃度やpH、温度などを測り、既定範囲内に自動制御している【右下】培地調整装置

【左上】種細胞培養を行う部屋【右上】拡大培養に使う3種類の培養容器【左下】1万リットルの培養タンク。タンク内のセンサーで溶存酸素濃度やpH、温度などを測り、既定範囲内に自動制御している【右下】培地調整装置

 

【左上】精製に使用するカラムクロマトグラフィー【右上】濃縮に使うフィルター【左下】分注装置【右下】分注装置に使う器具を滅菌する部屋

【左上】精製に使用するカラムクロマトグラフィー【右上】濃縮に使うフィルター【左下】分注装置【右下】分注装置に使う器具を滅菌する部屋

 

一部の点検記録を除き、製造の記録は電子的に行っており、改ざん防止と即時性を担保しています。宇都宮工場では、製造スタッフ一人ひとりにタブレット端末が支給されています。

 

バイオ原薬棟で作られた原薬はボトルに小分けし、自動搬送車(AGV)で注射剤棟に運搬。ここで製剤化されたものが、国内外に出荷されます。人間の手が介入することによる汚染リスクを最小化するため、多くの場面でロボットを活用。「AGVが走るのは中央廊下の1階。生産の大動脈です」(三橋さん)。

 

【左上】分注ボトルとバイアル【右上】洗瓶・滅菌を行うエリア。取材日は年に1度のメンテナンス日で、複数人でバリデーションの実施・教育を行っていた【左下】除染のためのアイソレーター【右下】従業員が使うタブレット端末

【左上】分注ボトルとバイアル【右上】洗瓶・滅菌を行うエリア。取材日は年に1度のメンテナンス日で、複数人でバリデーションの実施・教育を行っていた【左下】除染のためのアイソレーター【右下】従業員が使うタブレット端末

 

人に着目したDX

中外製薬グループの各工場では2022年ごろから、現場で働く人やオペレーションに着目したDXを推進。トラブル時に現場から遠隔支援者(役職者など)にリモートで状況を共有し、GMPエビデンスとして保存できるシステムは、浮間工場(東京都北区)を皮切りに宇都宮工場でも利用が進められています。

 

従業員が保有する資格情報や教育状況を一元管理するシステムも導入。「導入のために認定作業を棚卸ししたこと自体に大きな価値がありました。無駄が省かれましたし、現場のフレキシビリティも上がりました」(宇都宮工場製造4グループマネージャーの岡田賢二さん)。

 

工場を含む宇都宮事業所の従業員数は644人(25年7月1日現在)で、このうち生産活動に従事しているのは約300人。男女比は55:45で、生産現場の2~3割が女性です。

 

勤務体制はフレックス勤務で、ラインの稼働に合わせて柔軟に働ける体制をとっています。「コロナ禍をきっかけに、オフィスエリアはフリーアドレスにしました。リモート勤務も併用していて、工場に出勤するのは1日500人くらいです」(三橋さん)。

 

【左上】注射剤棟の居室【右上】10号棟の事務エリア【下段】食堂。9割の従業員が利用(右下は中外製薬工業提供)

 

26年に2つの新棟が稼働

宇都宮工場では現在、新たなバイオ原薬製造棟と注射剤棟の建設が進められています。現在は商用生産を担っていますが、新原薬製造棟にはシングルユース設備を導入し、治験薬から初期の商用生産をカバー。新注射剤棟にも少量多品目に対応できるラインを整備します。

 

2つの新棟の稼働開始は26年の予定ですが、すでに新注射剤棟は組織の構築が始まっており、今後、社内異動やキャリア採用などを通じて必要な人員を集めていくことにしています。「新たなチャレンジが増えるこの機会に、宇都宮工場のパーパスやビジョンを再定義する取り組みも行っています。われわれの原点をより手触りのある言葉にして、より一体感を持って医薬品製造に取り組める環境にしていきたいです」(三橋さん)。

 

【中外製薬工業 宇都宮工場の基本情報】 〈所在地/敷地面積/実施工程/操業開始/従業員数〉栃木県宇都宮市清原工業団地16-3/121,573㎡/バイオ原薬製造、無菌注射剤製造(バイアル/シリンジ)、検査包装 /1990年 /644人(派遣社員含む。25年7月1日現在。)

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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